丸善復活

丸善が京都河原町道りから姿を消して以来数年たつ。丸善は京都では大型書店として私の学生時代から親密な付き合いで河原町に行けば必ず立ち寄ったものだった。洋書も豊富で他の書店では見かけられないようなものが沢山書棚に取り揃えてあった。わが青春時代に繁華街でうってつけの待ち合わせ場所でもあった。

かつて胸を患っていた三校生の梶井基次郎がほこりっぽい丸善に入り美術書の書棚の前に行き、美術書をゴチャヤゴチャ積み上げその上に着物の袂に入れていた檸檬をその上にのせて丸善を後にした。その時の彼の文章の1説を紹介する。「変にくすぐったい気持ちが街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けてきた奇妙な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなに面白いだろう」。

この一節からも強く丸善が印象ずけられていた。近頃新進の大型書店の京都の中心街への進出で影が薄くなっていた丸善大日本印刷の傘下に入り息を吹き返す事になったという新聞記事を読み頑張れとエールをおくりたい。