流行り歌の効用

歌は世につれ世は歌につれ、流行歌は戦後何も楽しむすべも無い世の中にあって最も身近な金のかからない庶民の娯楽であつた。戦後人々は敗戦と国中が米軍の空襲の跡も生々しく茫然自失の状態であった。サトウ・ハチロー作詞で並木路子が美しい声で歌うりんごの唄が我々を日々明るく元気に生きる活力を与えてくれた。以後昭和30年代に入ると次々と新しい歌手が西条八十の素晴らしい作曲による新しい歌をぞくぞく誕生させ老若男女を問わす其の唄に酔ったものである。

それで、もう現れることの無い天才歌手美空ひばりの登場である。歌う唄、歌う唄全てがヒットし彼女の謡いぶりは子供であるにも拘らず大人顔負けの旨さである。庶民にとって歌謡曲のよさは其の唄の歌われた時代を振り返り、懐かしみ、悲しみ、喜びそれを聞くものの魂を揺さぶりその心情を一時的にせよ我を忘れさす魔力を持っている。

ひばりの唄などはこの庶民にとって欠かせない涙、喜び、悲しみ、などを充分に備えており聞くものをその唄に引きずり込む技を持っていた。このように今歌謡曲の代表選手を挙げたが歌謡曲、また演歌は人を力ずけ、喜ばせ明日えのエネルギーを与えてくれる。また人にたいして愛、同情、思いやり、など無数の良さを持っている。ひばりの40才後半の唄など人生の応援唄と言っても言い過ぎではないだろう。また其の情緒的な内容と歌いっぷりは庶民の胸に深ふかくぐさりと突き刺すような凄みがある。
昭和30年台、40年台はよい歌手が数多く輩出されいい歌が数え切れないほど歌われた。NHKの紅白唄が線は聴視率は70%台、庶民は大いに楽しんだ。同時にこの時代は経済の高度成長期に当り、日本人の1人当りのGDPは先進国の中でも最高位を記録していた。ジャパンアズ ナンバーワンと米国の経済学者エズラ・ヴォーゲルがいみじくも語っている。歌謡曲、演歌が労働者の精神的支柱であり、明日えの糧となり日本の経済を支えたのではないかと私は考えている。

さらにこの時代は現在に見られるような殺人事件の多発、殺人事件が新聞で報道されない日は無いようなことはなっかた。流行り歌が殆どと言って、いいくらい老若男女の口から消えてから10数年。親殺し、子殺し、兄弟殺し、いろいろ猟奇的な殺人事件。人間が殺伐としている。流行り歌、演歌が庶民の口をついて出た時は人間が今のように精神状態が異常ではなかったように思う。私は流行り歌は全ての安全弁であるかのように捉えている。今のような若者の好む音楽には情緒性が無い。こころを和ませるようないい流行唄が欲しい。そうすれば世の中もう少し平穏に収まるのではないか。