小林多喜二の蟹工船の静かなブーム

蟹工船が今静かなブームとなっている。この作品は昭和初期に小林多喜にょって書かれたプロレタ文学の最高傑作である。私は学生時代にこの作品に大感激して一気に読んだ。この作品を読んだのは今や後期高齢者となった私が3畳の部屋で裸電球がぶら下がり、ガタビシ窓の閉まり具合が悪く冷たい風がすうすう入る一人用の火鉢で僅かな炭で暖をとり、親父の古い丹前を身体に巻きつけてという具合の今の若い人には理解を超えた自分の城でだった。

この作品で労働者が資本家に徹底的に酷使され、また「搾取」され経営者側と労働者の対立を赤裸に記述した内容は自分の城で読むには申し分なかった。今に見ていろ労働者が資本家と徹底的に戦い我ら労働者の世界を打ちたてようという啓蒙の書であった。

いまや昭和27、8年ほどの酷い社会状況ではない。冬夏には冷暖房が入る快適な生活が約束され、外出には車、更にはTVなどの娯楽設備が完備し、このような社会背景で蟹工船を呼んで今の若者たちはどんな感慨を持つのだろうかと複雑な思いにひたる。

しかし現在の労働形態は正社員の3分の1は非正社員国税庁の発表では年収200万円以下の給与所得者は2006年には1022万人(岩波新書湯浅誠著反貧困)。現在でも小林多喜二の時代と同じで「人のみぐるみをはがすような質(たち)の悪い高利貸しのような金融業のみが繁栄し、圧倒的多数の給与生活者が将来を補償されなくなるとき戦前の農民と同じく、労働の現場が崩壊する」。{岩波新書本山義彦著金融権力}。

派遣企業がどんどん儲け若者は低賃金で「ネットカフェ」などでその日暮らし。社会背景は数十年前と大きく様変わりしている。戦前と異なり民主主義の看板を掲げた現代では経営者サイドの労働者に対して資本主義のあり方が益々巧妙になり現在の経営者はどんどん太る。サブププライムロ-ンを借りた人たちが戦前の日本の小作人である。ローンを貸し、それを転売する金融機関が不在地主である。(岩波新書本山義彦著金融権力)今蟹工船が読まれるのは小林多喜二の時代と形は近代化しているが内容は何も変化がないからであろう。